PROJECT
STORY #2

医療用電気メスの開発

表面カガクを、命の現場へ。電気メス開発プロジェクト

2020年に同社初の医療機器として上市された電気メス「CHIDORI」。
その開発と改良の軌跡を辿ることで、日本パーカライジングの技術が
どのように医療現場へと広がっていったのか、その現在地をひもとく。

PROJECT

自動車や鉄鋼をはじめとした幅広い分野において、表面処理技術を通じて製品に付加価値を提供してきた日本パーカライジング。この技術をより直接的に人の命や医療現場に貢献できる分野へ応用できないか——そうした想いから医療機器分野への参入が決断された。2018年、第三の柱となる事業としてライフサイエンス事業部が発足。電気メスの開発は、その象徴的なプロジェクトの一つとしてスタート。新たな領域への挑戦として試行錯誤を重ねながら開発を進め、同社初の医療機器製品の上市につながった。

MEMBER

内田 淳一

入社
2002年
所属
先端技術研究部
役職
部長(メディカルセンター長兼務)

ライフサイエンス事業立ち上げ期から電気メス開発を主導し、製品化に向けた体制構築と実用化を推進。

藤田 隆一

入社
2022年
所属
先端技術研究部メディカルセンター

入社後すぐに電気メス開発を担当し、評価手法の確立や滅菌対応の実現など改良を牽引。

Chapter 01

第一章|プロジェクトの背景ライフサイエンス事業への挑戦

当社の表面処理技術は、これまで自動車や鉄鋼といった分野で使われてきた。製品の性能を支える、目に見えにくいが世界を支える技術。その技術を別の領域に活かせないか、という検討の中で浮かび上がったのが、医療分野だった。

きっかけとなったのは、手術で使用される電気メスの課題である。一般的な電気メスでは、電極先端に血液や組織が付着しやすく、使用中の操作性に影響することがある。表面処理によってこの課題を解決できれば、手術時間を短縮でき、医療現場に新たな価値提供につながる。そこで試作と評価を重ねる中で、表面処理技術を施した試作品の使用を医師に依頼したところ、高い評価を得ることができたのである。

大きな可能性を見出したものの、それはこれまでの薬剤製品などとは異なる、最終製品への挑戦だった。医療機器としての品質、評価、供給。そのすべてを満たさなければならない。未知への一歩が、ここから始まった。

Chapter 02

第二章|立ち上げ・挑戦すべてを自分たちでやる

開発は2016年頃に始まり、試行錯誤の上2020年に電気メス「CHIDORI」が販売された。医療機器として承認を得るためには大量のサンプルが必要になるが、当時は量産体制が整っておらず、研究員だけでなくセンター全体で対応することになった。
「当時は部署全体でサンプル作製や評価に取り組んでいました。普段はそれぞれ異なる研究テーマに向き合っていますが、この開発では共通の目標に向かって力を合わせる貴重な機会になりました」と語る内田。医療機器として世に出すための工程は、これまでの開発とは大きく異なっていた。

こうして初代「CHIDORI」は市場に送り出されたが、開発はそこで終わらない。医療機器として現場に定着させるためには、継続的な改良と用途展開が不可欠だった。開発は「つくる」から「使われ続ける」段階へと移っていく。

Chapter 03

第三章|転機・試行錯誤正解がない中で考え続ける

2022年、入社間もなく第四研究センター(現メディカルセンター)に配属され、電気メステーマを担当したのが藤田である。藤田が直面したのは、評価方法や開発の進め方を一つひとつ整理しながら形にしていく必要があるという状況だった。現場で求められる性能を見極め、その判断軸を組み立てていくところから挑戦が始まった。
医師へのヒアリングや使用現場を通じて、どのように電気メスを使用しているのかを理解していく。現場の使われ方を起点に、評価方法そのものを設計し直すところから開発が始まった。材料を変える。形状を変える。コーティングを変える。試行錯誤は続き、「思った通りの結果になることは、ほとんどありませんでした」と藤田は振り返る。

中でも大きな課題が、滅菌工程への対応だった。医療機器では、滅菌後も品質と供給の安定性が求められる。そこで材料や構成の見直しを重ね、安定した供給につながる仕様の整備を進めた。「滅菌処理の課題がクリアできれば、製品価値をさらに高められると感じ、やる気に燃えていました」と藤田は振り返る。

発想は必ずしも研究室の中だけにあったわけではない。「日常的に使っている身近なものから着想を得るなど、そうした日々の何気ない気づきが開発のヒントになっていきました」と藤田は当時を振り返る。
「藤田くんはこの開発が評価され、社長賞を受賞しました。間違いなく電気メスの右肩上がりの成長を支えてくれていますし、未来を担う人材だと思っています」と内田は語る。

Chapter 04

第四章|結果とこれから使われて初めて意味を持つ

2020年に販売が開始された電気メスは、すぐに市場に広がったわけではなかった。医療機器は現場での評価に時間がかかる。導入と評価を繰り返しながら、地方の病院をはじめとする医療機関で採用が進み、その評価は全国へと波及。現在では全国各地の数多くの施設で使用されている。藤田が関わった改良は、滅菌工程への対応を通じて、供給面での安定化にもつながった。
「自分が関わったものが手術で使われ、患者さんを支えている、という実感は何にも変えられません。売上ではなく、使われている数がかけがえのない価値です」と藤田。

表面処理技術は、これまで見えないところで製品を支えてきた。その技術が今、人の命に直接関わる領域へと広がっている。今後は「CHIDORI」に限らず、医療現場のニーズに応じた製品開発を進めていく。さらに、治療だけでなく予防や再発リスク低減といった領域への展開も視野に入る。
「医療現場を助け、人を助ける開発をつづけていきたい」という思いで、藤田は今日も挑戦を続けていく。