PROJECT
STORY #3

新総合技術研究所
建築プロジェクト

研究員自らが考え、決める。新総合技術研究所プロジェクトの舞台裏

次世代技術の創出と新領域展開を担う拠点として
2023年に開所した新総合技術研究所。研究員自らが主役となり、
構想から実装までを担った一大プロジェクト。その舞台裏を追う。

PROJECT

研究所は、パーカーグループの技術の中枢として、将来に向けて世界に先駆けた新技術を発信する役割を担っている。しかし、既存の研究所は約40年が経過しており、建物の老朽化に加え、勤務人数の増加によってスペースにも限界が生じていた。新技術の開発に十分に集中できる環境とは言えない状況であった。
世の中では日進月歩で新技術が生まれており、当社も立ち止まることはできない。約100年かけて培ってきたコア技術をさらに深化させる一方で、エレクトロニクス、医療、環境(カーボンニュートラル)といった新市場への展開も進んでいる。今後さらに事業を拡大していくためには、研究所の拡張が不可欠であるとの結論に至った。
また、労働人口の減少により新卒採用が年々難しくなる中で、優秀な理系人材に「ここで働きたい」と思ってもらえる魅力ある研究環境を整備する必要性も、このプロジェクトを後押しする重要な背景であった。

MEMBER

天野 桂子

入社
1986年
所属
総合技術研究所 研究管理センター
役職
マネージャー
役割
チームA(Architecture)推進者

研究所拡張プロジェクトでは事務局として参画し、ゼネコンとの調整や全体進行を担いながら、構想から竣工までプロジェクトを主導した。

多田 恭平

入社
2015年
所属
コア技術研究部 機能性皮膜設計第二センター

チームW(Workstyle Innovation)推進者。働き方設計を担うチームWの推進者として、研究所における業務スタイルやルール設計を担当。議論をまとめ上げながら全体最適の実現に寄与した。

中谷 亜紀乃

入社
2014年
所属
コア技術研究部 機能性皮膜設計第一センター

チームB(Branding Innovation)推進者。研究所のブランディングを担当し、建築コンセプトや展示設計、外観表現までを議論・設計。社外への価値発信の軸を担った。

菊地 亮平

入社
2016年
所属
コア技術研究部 機能性皮膜設計第二センター

チームL&C(Labo Innovation & Construction Working)推進者。研究設備のレイアウト設計および移設を担当。装置要件の整理から配置設計まで、プロジェクトの実装フェーズを担った。

Chapter 01

第一章|プロジェクトの背景

まず、このプロジェクトが始まった背景から教えてください。

天野

一番大きかったのは、既存の研究所が今の研究に十分応えられる状態ではなくなっていたことです。建物は約40年が経過して老朽化が進み、勤務人数も増えてスペースにも限界がありました。実験スペースが不足して、新しい設備を入れたくても入れられない。研究環境としては厳しい状態でした。

中谷

現場としても同じ認識でした。研究テーマは広がっているのに、場所や設備の制約が先に来てしまう。工夫で回してはいましたが、それでは追いつかないところまで来ていたと思います。

多田

会社としても、コア技術を深めるだけでなく、エレクトロニクスや医療、環境といった新しい領域に広げていくタイミングでした。そうなると、従来の延長線上の研究環境では難しい、という感覚は強かったです。

菊地

採用の観点でも重要でした。優秀な理系人材に「ここで働きたい」と思ってもらえる環境が必要だという話は大きかったです。だからこそ、今回のプロジェクトは単なる建て替えではなく、「これからの研究所をどうつくるか」という議論だったと思います。

Chapter 02

第二章|立ち上げ・挑戦

立ち上げ時は、どんな状況だったのでしょうか。あわせて、それぞれの役割も教えてください。

天野

課題自体は10年以上前から認識されていましたが、具体像が定まらず議論が何度も振り出しに戻っていたと聞いています。それが2019年になってようやく構想が現実味を帯び、ゼネコンによる提案も本格化しました。私はそのタイミングで事務局として入りましたが、最初はあくまで「つなぎ」のつもりでした。結果的には最後まで関わることになりました。

中谷

今回のプロジェクトは、役割ごとにチームが分かれていたのが特徴です。私はチームBで、ブランディングを担当しました。研究所をどう見せるか、どう伝えるか。社外からどう見えるかも含めて考える役割でした。

多田

私はチームWで、働き方の設計を担当しました。設備やスペースではなく、「どう働くか」を考えるチームです。研究テーマも違えば働き方も違うので、それをどう全体最適にするかを議論していました。

菊地

私はチームL&Cで、レイアウトと移設を担当しました。各部署の装置をすべて洗い出して、サイズや電源、ガスなどの条件を整理し、それをどこに配置するか決めていく。かなり実務寄りの役割でした。

天野

Aが建築、Bがブランディング、Wが働き方、L&Cが実装。それぞれ役割は違いますが、共通していたのは「研究員が自分たちでつくる」という前提でした。そんな中、決定の基準となったのが、チームWが策定した4Cです。

4Cとは何でしょうか。

多田

Convert、Create、Combine、Change。この4つの視点で研究所を設計するという考え方です。ただ、議論は簡単ではありませんでした。意見は頻繁に二分されて、どちらかが間違っているわけではなく、どちらも正しい。多数決では決められない中で、どう納得感をつくるかが常に課題でした。

中谷

実際の議論でも、「それはCombineにつながるのか」「Changeになっているのか」といった形で判断の軸として使われていました。ブランディング側も、何もないところから形をつくる難しさがありましたが、それでも進められたのは、全員が自分ごととして関わっていたからだと思います。

菊地

L&Cは、そのコンセプトを現実に落とす役割でした。理想をそのまま実現できるわけではないので、制約の中で成立させる難しさがありました。

Chapter 03

第三章|転機・試行錯誤

プロジェクトの中で直面した大きな課題は何でしたか。

天野

やはりコロナの影響は大きかったです。プロジェクトは一度止まり、再開後は資材価格が高騰して、当初の1.5倍近い見積もりになりました。計画自体が成立しなくなる可能性もありました。

中谷

ブランディングでも、当初想定していた演出がそのまま実現できなくなり、見直しを迫られました。「何を残すか」を改めて考える必要がありました。

菊地

L&Cでは、装置のリスト化や移設準備そのものが大きな負担でした。出勤制限の中でデータを集めながら進める必要があって、かなり大変でした。

多田

チームWでは、答えのない議論が続きました。「どちらが正しいか」ではなく、「どう納得するか」。そこをずっと考えていました。

天野

建設が進む中では、短時間での判断も求められました。「右か左か」「残すか削るか」を即断しなければいけない場面が多かったです。意見を集めるほど決められなくなることもあって、最終的には自分が引き取るしかないこともありました。限られた時間の中で判断を積み重ねること自体が、このプロジェクトの本質だったと感じています。

中谷

それでも進められたのは、自由に意見を出せる環境があったからだと思います。立場に関係なく発言できる。それがこのプロジェクトの強さでした。

Chapter 04

第四章|結果とこれから

このプロジェクトの成果を、どう捉えていますか。

天野

まずは無事に竣工・引き渡しまで到達できたこと、その喜びに尽きます。
本プロジェクトでは、設計・建築期間を通じて、プロジェクトチームのリーダーをはじめとするすべてのメンバーが、本業と並行しながら献身的に取り組んでくださいました。その努力の積み重ねの上で竣工を迎えられたことに深く感謝し、関わってくださったすべてのみなさまと完成の喜びを分かち合いたい思いです。

多田

フリーアドレスのデスクや憩いのカフェスペースが充実し、新しい働き方ができるようになりました。私は集中して孤独に作業するより、日々の気分で環境を変える働き方が合っているのでとても助かっています。反対に集中したい人のために間仕切りのあるスペースもあり、各々の特性に合わせた柔軟な働き方が実現できていると感じます。

中谷

チームBで決めたエントランスのライジング階段などをお客様から評価いただくと誇らしい気持ちになりますね。
今回のプロジェクトは若手からベテランまで壁をつくらず、みんなで作り上げました。普段の仕事でもそうですが、トップダウンすぎない環境で自分の研究を突き詰めていけることがやりがいにつながっています。

菊地

毎日自転車で通勤しているのですが、外観が見えてくると誇らしい気持ちになります。
このプロジェクトが始まったのが2019年頃で、当時の私は入社4年目。そんな若手でも、会社として大きなプロジェクトメンバーに抜擢していただき、最後まで完遂できたことは嬉しい経験でした。それは実際の研究、今我々が取り組んでいる研究テーマも同じで、主体的に取り組んでいけるので達成感は大きいです。

天野

このプロジェクトを通して強く感じたのは、「任せる」ということの価値です。経営陣は必要以上に介入せず、研究員を信頼して任せる。その前提があったからこそ、自分たちで考え、自分たちで決めることができました。
ただ、完成したことがゴールではありません。建物はあくまで“器”であって、新しい価値を生み出すのは、そこで働く研究員です。この環境をどう活かすかで、これからの成果は大きく変わっていくと思います。
私たちの技術は「表面」を扱っていますが、表面はあらゆるものに必ず存在します。身近な製品から産業、そして社会、さらにその先まで、関わる領域は広がっています。その中で、新しい技術を生み出し続ける拠点として、この研究所が機能していくことを期待しています。